神戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)35号 判決 1990年1月31日
兵庫県尼崎市上坂部二丁目四番一号
原告
和辻潤治
右訴訟代理人弁護士
岡野英雄
同市西難波町一丁目八番一号
被告
尼崎税務署長
武宮匡男
右指定代理人
下野恭裕
同
佐々木達夫
同
宮崎孝夫
同
石川幸助
同
山越基博
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告が昭和六〇年一二月二六日原告の昭和五八年分の所得税についてなした更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告の昭和五八年分の所得税についての確定申告に対して、被告は昭和六〇年一二月二六日付で更正決定及び過少申告加算税の賦課決定(以下、更正決定を「本件更正」と、賦課決定を「本件決定」という。)をした。原告の確定申告、被告の本件更正、本件決定、原告の異議、国税不服審判所長の審査裁決の経緯は、別表1、2記載のとおりである。
2 しかし、本件更正のうち、確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法なものであり、したがつて本件更正を前提とした本件決定も違法である。
よつて、本件更正及び本件決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1項の事実は認め、2項の主張は争う。
三 抗弁
1 原告の昭和五八年分の分離長期譲渡所得金額は、一億〇八二一万五〇〇〇円であり、その計算は別表3記載のとおりである。
2 譲渡費用について
(一) 弁護士費用及び訴訟費用の支払いに至る経緯
(1) 原告は、昭和四二年に別紙物件目録一及び二記載の土地(以下、右物件目録記載の土地全体をさすときは「本件土地」と、一部をさすときは「本件一の土地」というように略称する。)を売買により取得したが、その後、訴外株式会社愛宕原ゴルフ場(以下「愛宕原ゴルフ場」という。)が、本件一及び二の土地の一部をゴルフ場として造成し不法に占有していると主張して、愛宕原ゴルフ場に対し、右一部の土地の明渡しを求め、争いとなつた。
(2) 愛宕原ゴルフ場は、原告から、その主張に係る右一部の土地を明渡さなければゴルフ場の営業を実力で妨害する旨申し立てられたが、右一部の土地は愛宕原ゴルフ場所有地の範囲内にあるとして、昭和四七年五月一一日に、尼崎簡易裁判所に対して、原告ほか一名(当時の本件一及び二の土地の共有者である。)を被申請人として、愛宕原ゴルフ場所有地につき占有妨害禁止を求める仮処分申請を行ない(同裁判所昭和四七年(ト)第二一号不動産仮処分申請事件)、同月一三日、その旨の仮処分決定を得、さらに同年八月一〇日原告ほか二名(いずれも本件一及び二の土地の当時の共有者であるが、後に取下となつた。)を被告として、同裁判所に対し、右と同旨の訴訟提起に及んだ(同裁判所昭和四七年(ハ)第一七四号占有妨害禁止等請求事件)。
これに対して、右原告ほか二名(うち一名は後に取下となつた。)は、同年一〇月三〇日愛宕原ゴルフ場を反訴被告として、本件一及び二の土地について愛宕原ゴルフ場所有地との境界の確定、所有権確認及び土地明渡しを求めて反訴を提起した(同裁判所昭和四七年(ハ)第二三五号境界確認等請求事件・なお、右本訴、反訴とも後に神戸地方裁判所尼崎支部へ移送され、それぞれ同支部昭和四七年(ワ)第五一九号、第五二〇号事件となつた。)
(3) 右両事件については、原告所有の本件一及び二の土地と、愛宕ゴルフ場所有地との境界がどこにあるかがほぼ唯一の争点として争われ(境界確認請求以外の請求の当否は、境界が確定されれば、これに伴つていわば付随的に決まるといつてよいものであつた。)、昭和五五年三月二一日愛宕ゴルフ場の主張をおおむね認める判決が言渡された。
(4) 原告及び愛宕ゴルフ場は、双方とも右判決を不服として大阪高等裁判所に控訴を提起し(同裁判所昭和五五年(ネ)第五四五号、第五五八号事件)、その後同裁判所から和解の勧告がなされたので、原告は愛宕ゴルフ場と和解交渉をした結果、昭和五八年二月二一日、原告が愛宕ゴルフ場に対し、本件土地を代金一億二五〇〇万円で売渡すこと等を内容とした裁判上の和解が成立し、その後その履行がなされた。
(5) 原告は、右一連の訴訟事件に関し、昭和四六年七月一三日から同五八年一一月三〇日までの間に、訴訟費用として七三〇万〇八六〇円を支払い(別表5のとおり。ただし、同表の<9>の鑑定料一五万円のうち、二万五〇〇〇円は、住井弁護士へ返還されているので、原告が現実に支払つた金額は七二七万五八六〇円である。)、住井弁護士に対し、弁護士費用として一二五〇万円を支払つた(別表4のとおり。)。
(二) 譲渡費用の範囲
所得税法三三条三項にいう譲渡費用とは、その譲渡を実現するために直接必要な支出を意味し、本件では、右鑑定料一二万五〇〇〇円のみがこれに該当し、その余の訴訟費用七一五万〇八六〇円及び右弁護士費用一二五〇万円はこれに該当しない(被告が本件更正処分に際し、右弁護士費用を譲渡費用と認定したのは、誤りである。)。
四 抗弁に対する認否
抗弁1(但し、別表3の<3>譲渡費用の部分を除く。)及び2(一)については、明らかに争わない。同2(二)の主張は争う。右訴訟費用は、これがなければ訴訟をなしえず、増加益の実現はなかつたのであるから、増加益の実現に必要な費用を言うべきであり、すべて譲渡費用として認められるべきである。被告が本件更正処分に際し、右弁護士費用を譲渡費用と認めながら、右訴訟費用を譲渡費用と認めなかつたのは、不可解である。
第三証拠
証拠は、本件記録の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1(本件処分に至る経緯)の事実については、当事者間に争いがない。
二 抗弁1(分離長期譲渡所得金額の計算。但し、別表3の<3>譲渡費用の部分を除く。)及び同2(一)(弁護士費用及び訴訟費用の支払いに至る経緯)は、被告が明らかに争わないから自白したものとみなす。
三 そこで右弁護士費用及び訴訟費用が譲渡費用に該当するか否かについて検討する。
一般に譲渡所得における譲渡費用(所得税法三三条三項)とは、その資産の譲渡を実現するために直接必要な支出を意味するところ、右弁護士費用及び訴訟費用は、一連の訴訟行為の遂行に要した実費及び委任事務処理に対する報酬と認められ、本件土地の譲渡のため直接要した費用とは認め難い。被告は、本件更正処分に際し、右弁護士費用を譲渡費用と認定したが、右のとおり、これは被告の誤りであつたと言わなければならない。
四 そうすると、本件土地に係る分離長期譲渡所得の金額が一億〇八二一万五〇〇〇円となることは、計算上明らかであり、本件更正の認定した九五八四万円を上回ることが明らかであるから、右一億〇八二一万五〇〇〇円の範囲内でした本件更正及びこれを前提とした本件決定は適法である。
よつて、本訴請求は失当であるので棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官 井上薫)
別表
和辻潤治の昭和58年分の課税の経過及びその内容
<省略>
昭和58年分の譲渡所得金額及び山林所得金額の計算
別表2
<省略>
別表3
<省略>
別表4
弁護士費用
<省略>
別表5
訴訟費用
<省略>
物件目録
一 宝塚市切畑字長尾山五番一四六
山林 六二一四平方メートルの二分の一の持分権
二 同所同番一四八
山林 二四三三三平方メートルの二分の一の持分権
三 同所同番一五六
山林 六六一平方メートル
四 同所同番一五七
山林 一三二二平方メートル